遥かなる尾瀬 ― 池塘と森と

尾瀬の原生林と西丸震哉

日本の地図を詳細に眺めると まだまだ未開の場所がある、そんな意味のことを
どこかで“探検家”西丸震哉氏が書いていた。そんな場所の一つが会津地方、それ
も桧枝岐村のまた奥、尾瀬沼の北あたりに容易に人の近づけない森と沼があると
いう。誰もが知る尾瀬沼や尾瀬ヶ原のことではなくて、地図上でしか辿れない 未
開といってもいいところらしい。はたして現代の日本に そんな場所がまだ残さ
れていたのだろうか?

そんな記事に触発され、尾瀬ヶ原に向ったのは だいぶ以前のことだ 。わたしの
住む関西からは尾瀬までは結構遠い。まず東京へ出て、浅草から東武鉄道に乗
り、会津地方の玄関口である会津高原駅に降り立ったのは十一月の上旬であっ
た。相当寒かった覚えがあるが、気分は高揚していたのか、バスを待つ間 チョ
ッキ姿で駅付近を散策したほどである。当日は尾瀬ヶ原では積雪があったよう
だ。すでに紅葉の盛りは過ぎているかもしれない、と心は尾瀬に。

ブナ平 ブナ原生林
モーカケ沢
天を衝かんばかりのブナ
ブナ原生林(ブナ平)

ブナ平のブナ原生林

バスが桧枝岐村を通過し、尾瀬御池に着いたのは午後になってからのこと。当日
のうちに尾瀬沼か尾瀬ヶ原に行くことも十分可能であったが、バスの中から眺め
たブナ平のブナ原生林が思いのほか素晴らしかった(まだ日本にはこのようなブ
ナの原生林が残っていた)。明日はその原生林に少しだけ立入ってみたい、と考
えて荷物は御池ロッジに預け、まずは御池田代周辺の下見に行った。

続々とハイカーの方が木道を歩いて御池の方角に向ってくるので 帰途なのだろ
う。まだ木道の上や、下草には昨夜に降った雪が残っている。足をくじいたよう
な歩き方をしている方もいた。木道上の雪で滑ったのだろうか、わたしも気をつ
けねばと思う(重いカメラ機材を背負っての怪我は目も当てられない)。

御池ロッジに泊まった翌日の朝、徒歩で車道を桧枝岐村の方角に下り、 モーカ
ケ沢 沿いの樹林帯、車道沿いのブナ林を撮影する。天気は良すぎるくらいなの
で、コントラストが付きすぎる。その上に富士のベルビアを使っているので派手
な絵になるのは避けられない。

朝の内だけブナ平の撮影をし、荷物を御池ロッジで受け取って次の目的地尾瀬沼
へ向った。ここは楽をして、沼山峠まではバスを利用した。今は立派な道路が出
来ているが、西丸震哉氏が調査していた時代にはこの道路はなかったに違いな
い、などと想像しながら。

尾瀬沼に立入る

尾瀬沼
沼尻休憩所付近か
平野家の墓

長蔵小屋で休憩
沼山峠から入山すると大江湿原が現れる。長蔵小屋前で一休みする。ヘリコプタ
ーの爆音がするので空を見ると荷物を運ぶヘリが荷下ろしを始めた。荷物は
“ボッカ”が運ぶ姿がたびたび報道されているが、このあたりではヘリを利用して
いるようだ。
さて休憩後は次の目的地 尾瀬ヶ原へ向う(三平下から燧ケ岳の威容を撮る予定
だったが、写真が残っていないので気が変わったのだろう)。

沼尻休憩所の茶店で食べた そば餅は旨かった
尾瀬ヶ原に向う途中、尾瀬沼周辺には小さな湿原が次から次に現れる。沼尻休憩
所あたりはいい雰囲気があった。ここの茶店の名物“そば餅”は評判に違わず旨か
った覚えがある。その後、この休憩所は火災に遭ったと聞いているので、今では
どうなっているか。

ブナの大木

見晴十字路で尾瀬小屋に泊まる

沼尻休憩所を後にして尾瀬ヶ原の北の玄関である見晴十字路を目指す。ここから
は樹林帯に入る。登山道沿いに不意にブナの大木が現れた。
さて 見晴十字路 には六軒の小屋がある。どの小屋にお世話になろうかと、しば
しの思案。しばらく下田代を散策し、決めたのは尾瀬小屋である。清潔そうな雰
囲気が決め手になった。部屋はきれいで、料理も美味しくていい選択であった。
常連さんらしきグループには山小屋にしては贅沢な夕食が出されていた(その中
には有名な写真家の方もいた)。その輪の中に入りたかったワ。

尾瀬ヶ原の池塘と白樺並木を楽しむ

尾瀬ヶ原
広大な池塘が広がる
白樺がいい感じに生えている
浮 草

水面の反射が気になった
三日目は尾瀬ヶ原の池塘を楽しんだ。残念なことに天候には恵まれず、朝から曇
り空で時雨模様であった。それでも時折日が射すので、その機会にイメージして
いた絵を狙った。
今になって写真を見返すと水面の反射が結構気になる。PLフィルターを使用す
れば任意に反射をコントロールできるのだが、当時は所有していなかったのか、
使った形跡がない。

草原の中の白樺並木
「尾瀬ヶ原の思い出」なんちゃって^^

三日間の山旅を終えて思うこと
わずか三日間の尾瀬ヶ原の山旅であった。燧ケ岳や至仏山(登山禁止だった)に
も登ってみたかった。三条の滝も見たかったし、渋沢温泉小屋にも泊まりたかっ
た。尾瀬が近ければ通いやすいと言えるが、関西からは相当入れこまないと難し
い。

もう一度尾瀬を訪れることが出来るなら、尾瀬ヶ原の池塘を周回し貴重な高層湿
原の水生植物をじっくり観察してみたい。それにはいく日かかるか分からないだ
ろうけど。さらに心残りはブナ原生林の俯瞰した写真が撮れなかったことであ
る。燧ケ岳か大杉岳あたりの山頂からなら撮れるのではないか、と想像している
のだが、こればかりは登って見ないと分からない (案外バスの屋根に上がって
見る景色が一番良かったりして)。

時代はバブル景気の盛りだった。それに比例するように古いものや自然を大切に
しようという機運が盛り上がってきていた。屋久島や青森県と秋田県にまたがる
白神山地に目が向けられ始めていた。そっちの方にも行ってみたい、見てみたい
と思っているのだけれど、いつになるやら。

お断わりしなければならないのは、掲載した写真の原版は三十年以上前に撮影し
たものなので「経年変化」が進んでいた。なので写真編集ソフトで、イメージに
沿うように加工している。ちょっとお見苦しい所があるのは ご愛敬ということ
で ご勘弁を。