松尾芭蕉 閑居の箴

あら物ぐさの翁や。日ごろは人の訪ひくるもうるさく、人にもまみえじ、
人をも招かじと、あまたゝび心に誓ふなれど、月の夜、雪の朝(あした)
のみ、友のしたはるゝもわりなしや。

物をもいはず、ひとり酒のみて、心に問ひ心にかたる。

庵の戸おしあけて雪をながめ、又は盃をとりて、筆を染め筆をすつ。

あら物ぐるほしの翁や。

     酒 の め ば い と ゞ 寝(ぬ)ら れ ぬ 夜 の 雪

   ” みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける “