白馬山麓にミズバショウとブナ林を見る

幻のブナ林を追う
始まりは涸沢の山小屋での会話だった。
十月の上旬、涸沢の紅葉を撮影するために涸沢の小屋に泊ったことが
あった。そこで知り合った何人かと山の情報を交換したことがある。
ある男が、白馬岳山麓にブナ林のたいそう美しい所がある、と言った
言葉が耳に残った。情報の乏しい時代だったが、現地に行けばその場
所は分るだろうと軽い気持ちで汽車に乗った。ついでに栂池のミズバ
ショウも見てみたいという気持ちもあった。

 

栂池自然園のミズバショウ

白馬駅から路線バス(現在はバス運行が廃止されロープウェイ)に乗り、
一時間強で栂池自然園に到着する。荷物を栂池ヒュッテに預け、先ずは
湿原を散策する。

 

 

 

 

 

 

 

あいにく小雨混じりの天気の上、霧まで出てきた。晴れた日なら白馬三山
が見えるというのだが視界は数十メートルか。うれしいことに、わたしの
他に人の影は見えず貸し切り状態だった。

 

ミズバショウは見ごろを迎え、日程を一週間遅らせたのが正解だった
(撮影は六月中旬)。

 

 

 

もう少し時期を遅らせれば、ニッコウキスゲを見ることが出来るだろう。

 

栂池自然園の魅力
秋には見事な草紅葉と付近の山々の紅葉を観賞できるに違いない。
「栂池自然園」は白馬岳、乗鞍岳の火山活動に伴い生まれたという。
標高は意外と高く、一千九百メートルある。尾瀬ヶ原と比べると規模
こそ小さいが、間近に標高三千メートル近い白馬三山を望むことが出
来るのが嬉しい。もし撮影当日に晴れていれば、雪を被った白馬岳が
見えたことだろう。
湿原の中間地点に公衆トイレがあるのだが、雪崩に遭い建物は流され
ていた。このような広い場所で、それも緩やかな斜面で大規模な雪崩
が発生するのだな、と自然のエネルギーの凄まじさを感じた次第であ
る。

 

一瞬霧が引き、赤い屋根の栂池ヒュッテが見えた。

 

夕方、栂池ヒュッテの部屋から栂池自然園の方角を眺める。
台風が近づいていたせいか、宿泊キャンセルが多く宿泊者は
わたし一人だった。
翌日は雨も止み曇り空、白馬大池まで足を延ばしてみた。日
頃の運動不足がたたり結構辛かった覚えがある。どういうわ
けか白馬大池の写真が一枚も残っていない。頭のなかには池
の映像が残っているのだが写真には定着させなかったようだ。

 

旅の目的は幻のブナ林
白馬山麓に狙いを定めたのはブナ林を見ることが第一の目的
だった。順番が後先になってしまったが、二日目に巡った栂
池のミズバショウの紹介が先になった。
初日は白馬岳の麓にあるというブナ林に向ったのだが、誰に
尋ねてもわたしのイメージしたブナ林は「知らない」という
返事が返ってきた。これには参った、毎度のせっかちさが裏
目に出たようだ。
取敢えず大雪渓でも見ようと、猿倉から白馬尻小屋まで歩い
ていった。小屋の映像はわずかに脳裏にあるのだが、肝心の
大雪渓が記憶に残っていないし、写真も無い。大雪渓が見え
るところまでは行かずじまいだったのかも知れない。
三十年も経つと記憶は大分飛んでしまうようだ(近ごろは昨
夜の食事内容さえ思い出せないのだが)。

 

猿倉ブナ林

 

 

 

 

 

 

猿倉から鑓温泉に向う尾根道に入るとブナ林が現れた。と同時にどしゃ
降りの雨に見舞われた。台風のような大雨だ。霧も出だした。ブナの幹
に目を凝らすと、見たことも無い生物が取りつき這い上がるのが見える。
長さ三十センチはあろうかというナメクジのような生物だ。後日調べた
ところ山ナメクジというらしい。杣人が言うには「焼いて食べると香ば
しい」というけれど、食べてみたいとは思わない。

 

 

 

二時間ほど撮影したが思ったほどには捗らなかった。同じ場所を何枚も、
何枚も繰返し撮影するばかりだった。体は冷え切って震えが止まらずに、
猿倉荘に入ってからは薪ストーブを独占(といっても宿泊者は一人)し
たほどだ。

 

二日目の朝には雨は止み、時折晴れ間さえ見えた。

 

 

 

 

 

猿倉付近の樹林を撮影し次の撮影地である栂池へ向かった。
白馬駅に戻る途中、道路わきに「八方温泉」を見つけたのでバスを降り、
露天風呂に浸かり周辺の景色を楽しんだ。露天風呂など期待もしていな
かったのでこれには癒された。
二泊三日の撮影行だったが、がむしゃらに歩くばかりで体力を消耗し、
収穫は少なかった。もう少し下調べをするべきであったと反省した次第
である。未だに幻のブナ林は、わたしの頭の中にだけ存在する。

 

撮影年:1991

 

 

 

    白馬山麓にミズバショウとブナ林を見る” に対して 2 件のコメントがあります

    1. koji-kame より:

      コメント有難うございます。
      もうしばらく山岳シリーズが続く予定です。モノクローム写真はその後になります。津軽の写真は十代から二十代の初めに撮った写真です。意外にも米国から見に来る方が多いので驚いています。まだ探せばあるはずですが、皆さんの視線に堪えられるかどうか…

    2. ken より:

      こんばんは。
      水芭蕉や深い緑の森の姿がとても美しいですね。
      霧の中の沢山の水芭蕉はとても幻想的です。
      山の写真も素敵ですが、僕は津軽のモノクロ写真がとても好きです。
      僕は悲哀よりも、懐かしさを感じます。

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