津軽の冬 - 歌枕見て参れ・実方かたみの薄

 

 

 

陸奥の国にまかりたるけるに、野の中に常よりもとお

ぼしき塚の見えけるを、人に問ひかければ、中将の御墓

と申は是が事なりと申ければ、中将とは誰がことぞと、

又問ひければ、実方の御事なりと申ける、いとかなし

かりけり。さらぬだに物哀に覚えけるに霜枯れ枯れの

薄、ほのぼの見えわたりて、のちに語らんも言葉なき

やうにおぼえて

※藤原実方は平安時代中期の名門貴族。清少納言と恋愛関係にあったと
言われている。一条天皇のご機嫌を損じて陸奥の守に任ぜられ、そのま
ま任地に客死。墓は宮城県笠島にある。

 

 

 

 

 

朽ちもせぬその名ばかりをとどめ置て

枯野の薄形見にぞ見る

…『山家集』

 

 

 

 

津軽野を歩いていると、いたるところに忘れ去られたかのような
墓地を見ることができる。道路わきに、あるいは田畑の中に人の
頭ほどの石を置いてあるだけの墓もある。荒涼とした風景とあい
まって実に寂しい思いにとらわれる。