秋の津軽野をゆく(みちのくは歌枕の宝庫)
みちのくを歌枕で知る
陸奥、奥州、青森という文字を目にすると、辺境の地、田舎というイメージが
先行し、とても憧れの地とは考えられないだろう。ところが平安のその昔には、
憧れをもって歌に詠まれていたのである。
たとえば “中古三十六歌仙” の一人能因は
都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹く白河の関
と詠んでいるように、都から遠く離れた陸奥は憧れをもって平安貴族たちに歌枕
の題材になっていたのだ。かの清少納言は「ゆくすゑはるかなるもの」は
陸奥国へ行く人の、逢坂越ゆるほど
と『枕草子』に書いているほど、陸奥とは遥か遠い土地として描かれていたの
である。ほかに歌枕として「白河の関」以外には「安積の沼」「信夫山」「松島」
「塩竈」「名取川」などがある。
あまたの宗教家にとっても、西行にしても、時代はさがるが芭蕉にとっても陸奥
とは、文字としても、まだ見ぬ土地、美しい物語の地として魅力があったのでは
ないだろうか。
津軽野
津軽平野に高く聳え立つ岩木山(津軽富士)。野ではたらく者をいつも見守っている
かのよう。
田んぼに広がる黒い文様は、脱穀後に籾殻などを焼いた跡である。
野焼き
野焼きは秋の風物詩ではあるが、迷惑を被ることもある。
※続きます。