花の百名山 櫛形山を歩く

 

杉の植林に囲まれた細い登山道を登っていると山頂間近で雲行きが怪しくな
り、雷鳴が付近に轟いたと思う間もなく大粒の雨が降り出した。雨はどうと
いう事はないが、落雷に遭うのが怖い。急いで山頂にある避難小屋を目指し
た。
櫛形山は甲府盆地の西南の方角にあり、山名の由来は、昔お婆さんが長い黒
髪に差していた和櫛の形をしていることからきているようだ。赤石山脈の前
衛峰で標高は2,052mと、そう高くはない。七月には山頂に自生するアヤメ
の群落が見事という。

 

 

霧のカラマツ林

山頂付近には樹齢の若いカラマツ林がある。真っすぐ伸びた幹が気持ちよい。

 

 

 

 

ゴゼンタチバナ

登山道の途中、杉の根元にゴゼンタチバナが咲いているのを見かけた。この花
を山で見たのは始めてである。

 

 

 

 

ヤグルマソウ群落

山頂付近でヤグルマソウを見かけ、雷雨が遠ざかってから撮影に向った。
時おり木漏れ日が差し、望みのイメージになった。

 

 

 

 

 

良い具合にカエデの老木が生えており、胸がときめく一瞬である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧のアヤメ平

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくの間アヤメ平を霧が漂い、写真撮影をするにもどこを撮ってよいか
皆目見当が付かなかった。

 

 

 

 

 

ようやく霧が引いていった。アヤメ平は平地だけではなく、斜面もあり際限
なくアヤメが咲いているように見えた。向こう側に行きたかったが、道は無
かったようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラマツの巨木にサルオガセがまとわり付いている景色は、櫛形山ならでは
の光景である。

 

 

 

 

ダケカンバとヤグルマソウ

 

 

 

 

 

原生林を歩く

 

 

 

 

 

 

林床のはざまに小道ができていて美しい。梅雨時にしか出会えない光景。

 

 

 

 

 

カラマツの巨木と林床に生える草の緑が目にやさしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時おり林床に木漏れ日が差し、シダの緑が映える。

 

 

 

 

 

木漏れ日の中を歩くのはハイカーにとっては至福の時である。

 

 

 

 

 

 

原生林を歩いて思い浮かべる文がある。少し長いが紹介してみたい。
「武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。どの路でも
足の向く方へゆけば必ず其処に見るべく、聞くべく、感ずべき獲物がある。
武蔵野の美はただその縦横に通ずる数千条の路を当もなく歩くことに由て始
めて獲られる。春、夏、秋、冬、朝、昼、夕、夜、月にも、雪にも、風にも、
霧にも、霜にも、雨にも、時雨にも、ただこの路をぶらぶら歩いて思いつき
次第に右し左すれば随所に吾等を満足さするものがある。これが実に又た、
武蔵野第一の特色だろうと自分はしみじみ感じて居る。武蔵野を除いて日本
にこの様な処が何処にあるか。」…国木田独歩著『武蔵野』より。

“武蔵野”という文字を”櫛形山”と置換えてみたならどうであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラマツの巨木

風雪に耐えている自然のままのカラマツとは、こういう姿なのだろうか。

 

 

 

 

 

コメツガの林にカラマツの巨木が点在している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サルオガセ

サルオガセは南アルプス周辺ではよく見られる。北アルプスや西日本の山では
見た覚えがない。気温と湿度が高い山、そして日陰を好むようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林床に咲くヤグルマソウ

 

今をさかのぼること三十年ほど前のこと、北沢峠で二日間峠歩きを楽しんだ
後、自生するアヤメの群落を見てみたいと思い櫛形山に足を運んだ。当時は
登山道もあまり人の手が入っておらず、現在のように鹿よけのフェンスなど
の人工物も無く、自然に近い姿の櫛形山を十分に楽しむことができたもので
ある。
道標は少なかったので、下山中に霧に巻かれ地図に無い分れ道に出ては無駄
な時を過ごした苦い思い出もある。

私は北アルプスや南アルプス、そして北八ヶ岳や西日本の山々の樹林帯を歩
くことが多い。樹林帯を歩くことが好きなのである。とりわけ梅雨時分は好
きな季節である。大抵の人は雨は苦手だろうが、雨の降らない山歩きはつま
らない。草木の生き生きとした姿を見たければ、雨の日に限るのだ。

櫛形山に登る途中、予期せずに幸か不幸かひどい雷雨に遭遇した。避難小屋
に退避し、雷鳴が遠ざかってから趣味の写真撮影に取掛った。林床に葉を広
げるヤグルマソウの濡れた緑に心が弾んだ。アヤメ平の無限に広がるアヤメ
の群落には戸惑い、どこから手を付けてよいか分らず、めったやたらにカメ
ラのシャッターを切るばかりで手ごたえは薄かった。

私が櫛形山で一番気に入ったものは、原生林とその林床の美しさであろうか。
原生林といっても昼なお暗いイメージはなく、カラマツ、コメツガ、ダケカ
ンバの疎林が 4㎞足らずの山頂部に広がっているのだが、梅雨時分というこ
ともあり、雨、霧、木漏れ日が目まぐるしく移り変わり、眼福のひと時を味
わうことができたものである。これは梅雨時の一瞬にしか味わうことができ
ないことと思う。雨の日に足を運び運が良い者だけが経験できることだろう。

※撮影年:1980年代