枕草子抄 宮にはじめて参りたる頃(弐)

 

 

 

 

大納言殿のまゐり給へるなりけり

御直衣 指貫の紫の色雪に映えていみじうをかし

柱もとに居給ひて

「昨日 今日 物忌に侍りつれど 雪のいたく降り侍りつれば おぼつかなさになん」と申し給う

 

 

 

 

 

「『道もなし』と思ひつるに いかで」とぞ御いらへある

うち笑い給ひて 「あはれともや御覧ずるとて」などのたまふ御ありさまども

これよりなに事かはまさらん

物語にいみじう口にまかせて言ひたるに違はざめりと おぼゆ

 

※『道もなし』ー「 山里は 雪降り積みて 道もなし 今日来む人を あはれとは見む 」・・・平兼盛

 

 

 

 

「御帳の後ろなるは誰そ」と問ひたまふなるべし

さかすにこそはあらめ 立ちておはするを なほほかへにやと思ふに

いと近う居給ひて ものなどの給ふ

まだまゐらざりしより 聞きおき給ひけることなど

「まことにや さありし」などのたまふに 御几帳へだてて

よそに見やりたてまつりつるだに恥づかしかりつるに いとあさましう

さし向ひ聞えたる心地 うつつともおぼえず

行幸など見るをり 車のかたにいささかも見おこせ給へば 下簾引きふたぎて

透き影もやと扇をさし隠すに なほいとわが心ながらもおほけなく

いかで立ち出でしにかと 汗あえていみじきには なに事をかは答へも聞えん

かしこきかげとささげたる扇をさへ取り給へるに

振りかくべき髪のおぼえさへあやしからんと思ふに すべて さる気色もこそは見ゆらめ

とて立ち給ひなんと思へど 扇を手まさぐりにして 「絵のこと 誰がかかせたるぞ」

などのたまひて とみにも賜はねば 袖をおしあててうつぶし居たり

裳 唐衣に白いものうつりて まだらにならんかし