枕草子抄 宮にはじめて参りたる頃(壱)
宮にはじめて参りたる頃 物の恥づかしきことの数知らず
涙も落ちぬべかりければ 夜々まゐりて 三尺の御几帳のうしろにさぶらふに
絵など取り出でて見せさせ給ふを 手にても えさし出づまじう わりなし
「これは とあり かかり
それか かれか」などのたまはす
高坏にまゐらせたる御殿油なれば 髪の筋なども
なかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど 念じて見などす
いとつめたきころなれば さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが
いみじうにほひたる薄紅梅なるは かぎりなくめでたしと
見知らぬ里人心地には かかる人こそは世におはしましけれと
おどろかるるまでぞ まもりまゐらする